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≪随筆≫ ロンドン紀行 番外編:ロンドン・ミュージカル

 自身にとって、ミュージカルはクラシック音楽と共に、人生における欠かせない“研修”領域となっている。初体験は、出雲高校時代、映画館の大看板に描かれた美女に誘われて見た【マイ・フェア・レディ】で、すっかり魅せられてしまった。映画の冒頭は、ロイヤル・オペラから出てくる紳士・淑女に、隣接したコヴェント・ガーデンの青果市場に働く(オードリー・ヘプバーン扮する主役の)イライザが切花を押し売りするシーン。コヴェント・ガーデンは、その後も、イライザの父親が朝から酔っ払ってノリのイイ“運が良けりゃ”を歌うシーンなど再々出てくるのでした。1964年封切りの映画を見たのは1965年のことで、それ以来、サウンド・オブ・ミュージック然りで、小生にとっては、スクリーンの中にミュージカルがあったのです。

上海大劇院のロビー(左)、 看板(右)

 第1回鳥取市勤労青年海外研修団員として、1990年10月29日に成田空港を発ち、ロンドンに3泊した2日目、昼食のためにバスを降りてレストランに向かう道すがら、場所に見覚えがあり、ドキドキ感を抱きつつ、添乗員に確認すると、やはりコヴェント・ガーデン! 意義を仲間に話すと、数人がその気になり昼食を急いで済ませました。再集合までの30分ほどの間に、大道芸やフリーマーケットでの記念品購入等に勤しんだ体験が今も鮮やかに蘇ります。
 学校の休日が4週6休となった1993年7月、子ども3人を連れて家族5人で甲子園球場のナイターを初体験。翌日曜日は、女性軍の希望で、キャッツ(ネコたち)・・・?! チケットは鳥取駅で購入したが、一枚1万円。妻はネコ派ですが、小生はどちらかといえばイヌ派であって、ネコどもを見るのに5万円か・・・と散財した感がありました。当時、旧難波球場跡地(現 なんばパークス)に円形・銀色のキャッツ専用劇場があり、ここで舞台ミュージカル【キャッツ】のロングラン公演中だったと観劇後に知りました。
 家族で初めての劇場体験でしたが、中に入ると・・・! ド肝を抜かれ、魅せられて、観劇後に劇団四季の会員になり、その後は舞台ミュージカル研修に勤しむことも人生の大事、今となれば(ロンドンミュージカル、何れはブロードウェーでの観劇の夢を含めて)余生の励みともなっています。 1997年11月に全国自治体病院協議会の西欧医療施設視察団の一員として、ロンドンを再訪した際には、単独での自由行動が許されていたこともあり、事前研修の一環で団員が東京に集った際に、【キャッツ】観劇の希望を話した次第でした。結果的には、同室のN氏と、積極的な女性2人の計4人で、当時ロングランを続けていたコヴェント・ガーデン至近にあったニューロンドン・シアターで観劇することが出来ました。現在は、ブロードウェー共ロングラン公演を終えています。劇団四季がブロードウェーの公演回数を超え、ロンドンをも凌いで、公演回数世界一になるのは確実といった情勢です。日本人はネコ好き!

上海大劇院の正面階段前:終演後

 さらに進むと自転車置き場があり、通用門と思える小さな入り口が・・・。警備員と思える男性にチケットを見せたら、「さらに進んで左に廻れ」と理解できるジェスチャー。で、19時に遅れまいと、暗がりを歩むと・・・ナ何と!!!
 連載モノならば、ここで止めて次号にとも思えるほどの劇的な環境の変化に遭遇しました。それも日本国内では体験し得ないほどの・・・。
 《燦然と輝く》の表記が似つかわしい大きな立派な建物の大階段があり、ここに【オペラ座の怪人】の英語表記がペイントしてあり、公演会場であることの確信ができた。建物に入る。十二分過ぎる照明と高い天井、大理石の豪華な空間。劇場入り口では、開演しており、ドアを管理する女性に進入を止められた。聴き馴染んでいる冒頭の曲がかすかにもれ聞こえる・・・。間もなく、女性に誘導されて、暗がりの客席を静かに背をかがめて降りて行く。立ち止まった女性に指差しされたが、(壁側に通路がなく、)舞台に見入っている観客の邪魔をしつつ自席に進むことに躊躇した。妻を促して、通路の浅い階段に座ることとした。座って間もなくに、係員に促された。「こりゃダメだ。自席に向かうか・・・」と観念したら、何と、前方に誘われた。VIP席ゾーンの上手後方通路側に連番の空席が2席あり、ここに座れと指示されたのです。
 何と幸運なことか・・・。党や上海市の、それこそVIPの突然の来訪に備えて確保してあった席だとの理解は容易でしょう。

上海大劇院の外観全体

 帰国後調べたら、中国で初めてのロングラン公演であり、ロンドンでオーディションしたプロダクションが上演していたのでした。英語上演で、字幕は全く読めない中国語です。よって、我々は舞台に集中することになったのですが、一幕が終わって、共通した感想は「凄い! 英国の数百年の歴史に下支えされた演劇性があり、これに台詞があって、さらに、音楽が乗っている」ことでした。劇団四季が上演する場合は、主に浅利慶太が翻訳する際に、言葉が観客に伝わることを理念として、極力一音に一語を乗せ、音楽のフレーズに合わせて単語を乗せることとしており、原文を無視すれば、聞き取り易いのですが、演技との一体感からすれば、おそらく無理があるのでしょう。そのことを実感させる本場ロンドン発の舞台でした。

 2006年の成人の日、夫婦で上阪し、梅田で東宝ミュージカル【レ・ミゼラブル】を初体験しました。残念ながら、失意! その理由は、言葉(歌詞)が聞き取りにくいこと、アンサンブルの力が弱いことで、ロンドンでロングランが続いている事実とかけ離れている感を抱きました。
 その後、東宝版の同CDを手に入れて聴きましたが、やはり、歌詞が聞き取りにくい。結局、音楽を無視した訳詩であり、ひとつの音に単語が早口言葉のように無理やり乗せられていることや、長い音符に一音のみで間延び・不自然さを感じることなど、そして、アンサンブルを含めて、発音方法の一体感が無いことによる聞き取りにくさも加味していました。
 ロンドンでロングランが続いている実績とのギャップが大きく、このままでは“オワレナイ”思いを抱いたのです。

“女王陛下の劇場”の外観

 2009年9月、夫婦で初めてロンドンを訪れた際には、妻は【オペラ座の怪人】のみで良いとしましたが、ナイショで【レ・ミゼラブル】のチケットも手配し、2演目を観劇しました。
 上海大劇院の大ホール空間は大きく、舞台も大きかったのですが、一方、ロンドンでロングラン公演している〔Her Majesty's Theatre〕(“女王陛下の劇場”)は座席空間が馬蹄形であり、天井高い所まで座席があることで、1,000席を越える客席数の割には予想外にコンパクトでした。我々の座席は前方上手の端でしたが、舞台はとても見易い環境でした。馬蹄形の劇場は日本では体験できません。

 字幕はなく、当然、英語上演であり、上海の際と比べて、舞台が近く、緊密な空間でもあって、より一層食い入るように見入っていました。一幕が終わり、夫婦で一致した感慨は、やはり、演劇が土台にあり、台詞があって、これに音楽が乗っているとの確信でした。

終演後、“女王陛下の劇場”前のにぎわい

 さて、日本での初観劇でチケット代を損した感覚を抱いた【レ・ミゼラブル】でしたが、幸い(?!)英語のヒアリングに疎いこともあり、同様に舞台に見入ることになりました。結果?!・・・【オペラ座の怪人】同様です。ストーリーは承知しており、主だった楽曲は1985年のロンドンオリジナルCDで聴きなれていたこともあり、舞台に集中できました。

クィーンズ劇場至近の中華街

 ロングラン25周年を記念し、(名物アリーナ)〔The O2〕で2010年10月3日に、昼・夜2回公演で、約3万6千人の観衆が集い、欧州ではTV生中継もあったとのことです。この演奏会形式の25周年記念【レ・ミゼラブル】は、DVD・Blu-ray の発売前に、NHKがハイビジョン放映しており、小生にとっては、お宝映像となりました。
 なお、1986年にロングランを開始した【オペラ座の怪人】もマッキントッシュらにより産み出されているが、公演記録は各々1・2位で、1万回を超えている。一体いつまでのロングランになるのか・・・。
 自身はロンドンで、あと何回の観劇体験を重ねることになろうか・・・。レ・ミゼは、25年後に50周年・・・。小生が85歳の年ですが、ロンドンでの記念公演の生体験を念願しましょうか!

劇場の外観・壁面(左)。客席は馬蹄形で天井も円形(右)

劇場の壁面(左・右)

追記1) 上海大劇院での【オペラ座の怪人】観劇後、ホテルへの帰還は・・・? 観劇前まで、思案していたのは間違いのない事実でしたが、チケット購入後は、終演後に劇場を出るまで、全く忘れていました。
 帰還は、実に容易でした。観客の大きな流れに乗って歩いたら、5分もかからない程度で、地下鉄〔人民広場〕駅に達したのです。上海大劇院は人民広場に在り、(日本なら銀座に相当する)南京路が近接していたのです。観劇の興奮を冷ます意図もあり、南京路を夜景が著名な外灘(Bund バンド)に向けて歩きました。


追記2)2009年の還暦旅行の際、チケットは日本人によるμ社で、観劇前の食事付プランを購入しました。良心的な対応をしてくれるので、慣れない方にはオススメです。[ みゅう ロンドン ]
 現時点における“研修”成果では、現地の〔ticketmaster〕がオススメです。無料会員登録をし、座席指定が出来て、かつ、手数料がかからず、現地価格のチケットは、(わが国の簡易書留並の約500円で)Air Mail で届けてくれます。若干の寄付を加えても、各社の手数料よりは安価になります。[
ticketmaster, uk ]
 劇団四季の場合は、会員先行発売日に舞台に近い中央ブロック席は完売になるのが常です。が、ロンドンの各ミュージカルでは、自身で座席指定して購入する文化にないのか、或いは、2階前方席がVIP席に位置づけられていることもあってか、舞台・俳優を至近で見られる席が確保できます。
 さぁ、シミュレーションに留まらず、“還暦+1年記念”で、(ゴールデン・ウィーク中の病院当直をこなした後に)わが人生初の単独渡英・実体験としますか・・・。還暦記念夫婦初渡英が公園巡り主体だったので、単独ゆえにオーケストラ・コンサート、ミュージカル三昧と美術館・博物館巡りを堪能することとして・・・。
 Viva! 自立・挑戦的生涯研修!

鳥取県東部医師会報 No.394 随筆[ロンドン紀行 番外編:ロンドン・ミュージカル]2010年7月号 p.43-47 掲載の原稿

2020/9/3 up

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